約3週間に渡るロシア遠征を終え、帰国したばかりの小林優香。シーズン初戦3連戦を振り返る。

トゥーラGP2019

気温こそ30度前後だが強い陽射しが照りつける屋外バンクで行われたトゥーラGP2019。ロシア最古のベロドロームはバンクも荒れ、ガールズケイリンの屋外バンクで行われるレースに慣れているはずの小林優香をもってしても過酷であった。

UCIクラス1の大会でスプリント4位、ケイリン7位という小林優香の実力からすれば満足とは言い難い結果で終えたトゥーラGP2019。その初日に行われたケイリンは、本人も「正直、気持ちが入っていなかった。どこか集中できておらず“いつも通り気持ちを入れなきゃ”と思っても、上手く入れなかった」と振り返る。そうして準決勝で敗れ7-12位決定戦へ。

出だしでこそ躓きがあったものの、これがスイッチを切り替えるきっかけとなった。

ケイリンのアジアチャンピオンジャージを身に纏い挑んだレースは、当初それがプレッシャーにもなっていた。しかし決勝進出を逃したからこそ「勝てばいいんだ」と、プレッシャーが薄らいだ。そうして7-12位決定戦は1着でフィニッシュ。

翌日に行われたのはスプリント。3位決定戦で太田りゆ選手と日本人対決に敗れ、表彰台へ登ることはなかった。

レース直後、努めて明るく振る舞おうとしていたが、その表情からは悔しさが溢れてもいた。実際にこの時の心情について尋ねても「頑張って作り笑いをしていた」と、複雑な心境も明かした。

小林優香は、初戦のトゥーラGP2019を「あの時は、めっちゃくちゃ悔しかった…」という気持ちで締めくくる事となる。

トゥーラGP2019女子ケイリンのレースレポート(More CADENCE)

トゥーラGP2019女子スプリントのレースレポート(More CADENCE)

モスクワGP2019

レースの舞台はトゥーラGP2019から僅か中2日間で、モスクワGP2019へと移る。

この大会で小林優香は昨年ケイリンで優勝、スプリントも3位。さらには200mFTTの日本記録を更新もしている大会だ。

トゥーラGP2019の後、ブノワ・べトゥ短距離ヘッドコーチと小林優香は深く話し合った。様々な問題点と、その解決策を共に見つけ出し、勝つための思考を見出した。「勝ちたい」自然に、ただストレートにその想いが頭の中を占める状況へ、ブノワコーチが導いてくれた。そしてレースへ臨む前のマインドもトゥーラと同様「勝てばいいんだ」と、レースへの緊張感は保ちつつも、肩の力を抜いた状態でバンクへと向かうことができたのだ。

結果はケイリン2連覇、スプリント2位と、総合結果は昨年を上回るものであった。

200mFTTの日本記録更新も目標に掲げていたが、結果はなんと0.001秒まで同じ10秒814。1年前の自分を上回る事が出来なかった悔しさもあるか?と思い尋ねたが「前日のケイリン決勝が終わって会場を出たのが23:30。疲れた状態のまま、すぐ翌朝に走って日本記録と同じタイムが出たのだから、実力の底力はついている」とポジティブに捉えていた。

スプリント決勝の対戦相手は2019年の世界選手権で500mTT優勝、スプリント3位のダリア・シュメレワ選手。

小林優香自身も「彼女は1つ上の格」と語り、結果もストレート負けとなったが「今までは“戦えない相手”だったが、今回は“戦える相手”だと感じた。彼女は世界選手権のメダリスト。彼女と戦えるという事は、ワールドカップのメダル常連組に自分も入れるという事」と大きな手応えを感じている。

この手応えは小林優香にとって、非常に大きな収穫だ。「戦える相手」という表現は控えめだが、言い換えれば「勝つ事もできる相手」だ。それだけ小林優香は自身の実力へ対し、確信を持つ事が出来る結果を、このレースから感じ取っていた。

モスクワGP2019女子ケイリンのレースレポート(More CADENCE)

モスクワGP2019女子スプリントのレースレポート(More CADENCE)

サンクトペテルブルグGP2019

ロシア遠征3連戦の最終戦。舞台はサンクトペテルブルグへと移った。連戦に次ぐ連戦の疲労に加え、モスクワから電車で4時間の長距離移動もあり、疲労が重なっている。しかし、その状況は日本ナショナルチームのメンバー、同じく転戦を続けるリトアニアチームやロシアの選手も同様だ。

サンクトペテルブルグGP2019、スプリントは3位決定戦で3本目までもつれ込むも勝利しての銅メダルを獲得。しかしケイリンは決勝進出も先行逃げ切りを図ったコロレワへ対応できず、4着。表彰台を逃した。

「情けないレースだった」小林優香はそう振り返る。

「せっかくモスクワで気持ちを切り替える事が出来て、結果も出せたのに、そのモチベーションを持続させる事が出来なかった。連戦での疲れは言い訳に出来ない。新田さん(新田祐大選手)も同じくトゥーラから3週間一緒に戦ってきて、全ての大会で必ずメダルを獲っている。他の皆も同じ条件で、結果が伴わなかった事は言い訳にできない」

サンクトペテルブルグGP2019女子ケイリンのレースレポート(More CADENCE)

サンクトペテルブルグGP2019女子スプリントのレースレポート(More CADENCE)

イギリス経由での帰国

長いロシア遠征が終わり、帰国の途へついた日本代表チームとは別に、小林優香とブノワコーチの2人だけはイギリスへと向かった。目的は風洞実験施設でのテストだ。

しかし、小林優香は英語が話せなかった。ブノワコーチとの会話には必ず通訳を必要としており、たった2人だけで数日間を一緒に過ごす事など初めての経験。必然的に英語で会話が必要となる状況で、小林優香はどうしたのか。

チームにはジェイソン・ニブレット アシスタントコーチをはじめとする外国人、競輪の短期登録で来日する様々な外国人選手、そういった外国人選手らと共にトレーニングを行い、国際大会で共に戦う事で会話も増えた事で、小林優香の英語力はブノワコーチとの意思疎通に問題が無いレベルまで向上をしていた。

こうしてイギリス経由での帰国は、通訳すらいない2人きりの環境だからこそ実現した、普段ではしない様なプライベートな話題の会話も重ね、互いの理解を深める好機となった。

今回のロシア遠征は、昨年以上に実り多いものであったと言えよう。勝つための思考、メダル常連相手に戦える自信、そしてコミュニケーション力。その多くはメンタリティの部分を挙げるのは、フィジカル面はとっくに世界トップクラスの実力を身に着けているからこそだ。

トラック競技の次戦は7月のジャパントラックカップ。オリンピック直前という事もあり、今年も多数の海外チームが出場の意向を示し、ワールドカップ並の戦いとなるであろう。しかし小林優香は確実に、優勝争いを繰り広げる一員としてレースを繰り広げる事は間違いないであろう。

約3週間ぶりに自宅へ戻り僅かばかりの休養を経て、小林優香は再び戦いの舞台へと立つ。6月13日から取手競輪場で開催される、ガールズケイリンのレースへ出走予定だ。

取手競輪場 公式ホームページ

「数少ないガールズケイリンのレースだからこそ、1走1走を大切に、勝ちにこだわっていく」と、スイッチの切り替えは既に出来ている。